改めて

9日の日曜日のNHKスペシャル「巨大津波 その時ひとはどう動いたか」を録画したものを、改めて観る。
当日に見てはいたが、やはりいろいろ考えさせられる。
宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区を詳細に調査し、被災マップと当日の行動状況を再現したものだ。
震災当日、閖上地区に津波が到達するまで、約1時間10分の余裕があった。それでも、住民のほぼ6人に1人が犠牲となる大惨事となってしまった。
番組では、心理学の専門家が、人が陥りやすい“心の罠”のことを話していた。
緊急時に人が陥りやすい心理状態、そのひとつが正常性バイアスだ。
つまり、危険な兆候が明らかに現れているのに、それを無視して「大丈夫なんだ」と思い込む心理だ。
人とは、避難したがらない生き物なのだ。異常な兆候を無視して、安心材料をかき集めて平気だ、大丈夫と思い込もうとする。
それが避難を遅らせる。
第二の心理状態、それは【愛他行動】。他人のために、危険を顧みずに行動してしまう心理だ。
ごく普通の一般市民が、職務上の行為でもないのに他人の避難誘導をしたり、避難したがらない人の説得をしたりする。
それをしていたために、自分が逃げ遅れて亡くなったケースがいくつもあったという。
美談として片付けるだけではすまない、心理行動だ。
第三の心理状態、それが【同調バイアス】だ。周囲の人と同じ行動を取って、安心したがる心理のことを言う。
当日、最初の避難場所だった公民館から、中学校に避難場所を移す人々が大勢いた*1。そして、2ヶ所の避難場所を結ぶ道路は車の大渋滞となった。
閖上地区最大の悲劇の舞台は、実はこの道路上だった。渋滞にはまったまま、車ごと津波に流された人が数多くいたのだ。
もちろん、いくつか脇道はあり、脇道に逃れることによって助かった人は何人もいる。
だが、大勢の人々は、ただ黙々と渋滞の列に並び、時間を空費してしまった。
津波からの避難”という時間が限られている状況の中で、“みんな並んでるから”で渋滞の列に加わるのは致命的な事態になる可能性が高いのだが、人はそれをやりがちになる。
“みんなやってるから”
でも、みんながやっていることが、正しいとは限らない。
震災当日は、これに情報不足が拍車をかけた。
あたり一帯停電して、防災無線も働かず、TVもつかない。ラジオは情報を流していたが、正常性バイアスに囚われ、あるいはあわただしく動き回っていたせいで、情報を聞き逃してしまう人は多かった。
津波が到達する前、まだかなり時間的余裕を残している状態で、予想される津波の高さ10m以上という情報がラジオで流れてはいたのだが……
いくら情報が流れていても、それをきちんと受け止めて避難行動に生かせるようにしないと、意味がないということなのだろうな。
防災計画を立てるなら、ハード面だけではなく人間心理を含んだソフト面にも焦点を当てないと、悲劇は繰り返されてしまうだろう。
どうすればいいのか、考えなくてはならない。この犠牲を、なんとしてでも後世への教訓とするために。

*1:それは、どこからともなくもたらされたあやふやな情報「公民館は危険だから中学校に避難したほうがいい」がきっかけだったそうだ