プロフェッショナル

「プロフェッショナル仕事の流儀」先週放送分を見る。
今回は、脳神経外科医。年300件の脳動脈瘤の手術を行う、全国でも指折りの医師。
他の病院で「手術できない」といわれた患者が、最後の望みを賭けて、全国からやってくる。
「覚悟を持って言い切る」
動脈瘤は、破裂しなければ症状はない。だが、万が一破裂すれば、多量の脳内出血を起こして、半数が死に至る恐ろしいものだ。
手術すれば、破裂の心配はなくなるが、脳神経の中の血管の手術であるため、後遺症が出てしまう場合*1がある。手術はリスクと隣りあわせだ。患者は、どうしても思い迷う。
そんな時、患者に向かって「大丈夫。後遺症を出さないように手術しましょう」と言い切る。そして患者を安心させるのだ。患者は、自分の人生を賭けてくる。ならば、自分もそれを真正面から受け止める。その覚悟がなければ、患者と向かい合うことはできない、と考えている。
「それは医者の論理」
脳神経外科医となるべく、他の医師の手術に立ち会っていた若い頃、素晴らしい腕を持つ脳神経外科医に出会い、彼のいる病院に移ってその技術を学んでいった。
そのとき、師であるその医師は、力及ばす患者が亡くなったとき、遺族に対して「自分の力が足りなかった」と頭を下げ、謝った。それがたとえ、手の施しようのない患者であっても。
何も悪くないのに謝るのはおかしいと反論したとき、師は言った。「それは医師の論理だ。患者は命をかけて医者を信じる。その信頼にこたえられないのは、医者の力が足りないというほかはないのだ」と。
そののち、自分を信じて手術に臨んだ患者を助けられなかったとき、「患者は命を賭けて医者を信じる」という言葉の重みを、身をもって知った。今でも、その患者の顔が浮かぶという。
「覚悟」
ある日、直径4cmという、この医師でも年に1、2例しか見ない巨大脳動脈瘤を抱えた患者がやってきた。クリップで挟んだりする一般的な手術は無理で、腕から血管を取って、バイパス手術をすることになった。
彼は、後遺症なしに治すと約束し、手術が始まる。
脳動脈の血流を一時止め、腕からとった血管を縫い付けてバイパスとする。とめられる時間は20分が限度。
彼は、目の前のことにだけ集中し、淡々と縫合を続ける。そして、血流再開。限度とされた時間以内だった。手術は成功した。
ときに、「“後遺症なしに治す”と言い切る、そういう言い方は危ない」といわれることがある。万が一、遺族から訴えられるかもしれないのに、というわけだ。
だが「患者が命を賭けて医者を信じるのだから、自分は医者の命を賭ける。自分もリスクをとって五分五分の関係を築くことこそ、患者への礼儀だ」とその人は言う。
今も彼は、一日の睡眠時間4時間という厳しい毎日の中で、患者と向き合っている。

*1:脳神経学会での報告によると、手術後に5%の患者に後遺症が出たという